殉教者・カヘティ王妃聖ケテヴァンの不朽体(聖遺物)がインドからジョージア【グルジア】に(2021年7月)大統領・両外相らが大聖堂の式典に参列するも、バグラチオン王朝からの参列者なし(たぶん)

 2021年7月9日、キリスト教/東方正教会/ジョージア正教会【グルジア正教会】の殉教者・カヘティ王妃聖ケテヴァン(Saint Queen Ketevan of Kakheti)の不朽体(聖遺物)がインドからジョージア【グルジア】にもたらされました。

 

 (英語:インド外務省 公式サイト)External Affairs Minister at the ceremony to mark the return of the holy relics of St. Queen Ketevan in Georgia

Ministry of External Affairs, India(インド外務省 公式チャンネル):
EAM at the ceremony of Handing over of holy relics of Queen St.Ketevan – YouTube

 

ジョージア大統領コメント/
Salome Zourabichvili(サロメ・ズラビシヴィリ公式チャンネル):
პრეზიდენტის კომენტარი ქეთევან დედოფლის წმინდა ნაწილების საქართველოში გადმოსვენებასთან დაკავშირებით – YouTube

 

 (ジョージア語【グルジア語】:ジョージア正教会【グルジア正教会】総主教庁 公式サイト)საქართველოს საპატრიარქო | დიდმოწამე ქეთევან დედოფლის წმინდა ნაწილი საქართველოს მართლმადიდებელ ეკლესიას გადმოეცა

 (英語)Georgian Church receives relics of St. Ketevan from Indian gov’t / OrthoChristian.Com

 

 聖ケテヴァンは、現在のジョージアの東部に成立していたカヘティ王国の王妃(&王太后)であり、サファヴィー朝のアッバース1世にイスラム教への改宗を要求されたため拷問を受け殉教したとされています。
 その遺骨などはカトリックの聖職者によってインドにもたらされます。
 インドでは、自国に現在あるものについては、インドの文化的遺産として扱うため、他国に渡す理由がありません。したがって今回の“返還”はインド首相ナレンドラ・モディ閣下の英断となるわけです。
 今回、インド側が特殊な決断をした上に外務大臣スブラマニヤム・ジャイシャンカル閣下がジョージアを初訪問までしたその目的についての考察はやや錯綜しており、ロシアへの牽制を読み取るものや、あるいはコーカサスへの足掛かりをえて婉曲的に中国への牽制をしている、あるいはイスラムvs非イスラムの対立を構築する作戦という見方もあります。しかし、いずれにせよちと説得力が足りないように思います。はっきりいってよくわかりませんが、当サイトの考察対象ではないのでここまでにしておきます。
 ジョージア側では、副首相・外務大臣ダヴィト・ザルカリアニ閣下が対応をおこないました。

 重要なのは、7月10日には、ジョージアの首都トビリシの至聖三者大聖堂で記念式典がおこなわれたことであり、ジョージア正教会から首座代行であるセナキ・チホロツク府主教シオ座下(His Eminence Metropolitan Shio of Senaki and Chkhorotsqu)が臨席しています。
 事前には総主教イリア2世聖下の臨席という話も出ましたが、高齢と体調の問題で動くのも難しいのかもしれません。
 また、記念式典には、ジョージア大統領【グルジア大統領】サロメ・ズラビシヴィリ閣下(ズラビシュヴィリ大統領)も臨席しています。

 そしてようやくここからが当サイトの本題となります。
 ジョージア王室、あるいはバグラチオン王朝の当主は二系統にわかれて対立を続けています。
 男系では年長系統ながら、長らく君主の位から離れていたムフラニ系統。
 そして、ジョージアの最後の統一的な王の系統であるグルジンスキー系統。
 動画やその他記事を見る限りでは、両系統ともこの重要な式典に臨席していません。
 ムフラニ系ジョージア王室当主/ジョージア皇太子ダヴィト殿下(ムフラニ公 : His Royal Highness The Crown Prince Davit of Georgia, Royal Prince of Kartli (Batonishvili), Prince of Mukhrani and Mukhran Batoni : ダヴィト・バグラチオニ=ムフラネリ公子 : Prince Davit Bagrationi-Mukhraneliダヴィト・バグラチオン=ムフランスキー公子 : Prince Davit Bagration-Moukhransky)は、グルジンスキー系統の元妻からの暴行・DVでの提訴を受けジョージアを離れています。臨席しようがありません。
 一方、グルジンスキー系統のジョージア皇太子ヌグザル殿下(His Royal Highness Crown Prince Nugzar of Georgia : ヌグザル・バグラチオン=グルジンスキー公子 : Prince Nugzar Bagration-Gruzinskyヌグザル・バグラチオニ=グルジンスキー公子 : Prince Nugzar Bagrationi-GruzinskiBatonishviliTsarevich)もまた臨席していません。

 聖ケテヴァンは、ムフラニ系の男系女子であり、またヌグザル殿下の直接の先祖になります。
 そして、バグラチオン王朝関連の出来事で、今回より大きなことは当分ない、下手したらもうないということです。
 このような状況で臨席が実現しなかったのは、もはや政府も教会も両系統共に王室当主として扱う気が薄れているのではないかという気がします。
 王政復古どころか当主として扱われないという、なんとも情けない有様になってしまいましたが……。そもそも先祖の遺骨の返還に呼ばれないという時点で、もうどうにもならないでしょう。
 最大の王政復古支持者である総主教イリア2世聖下は高齢で、後継と目されるシオ府主教は、コンスタンティノープルがロシア正教会の管轄権下にあるウクライナに対して起こした勝手な行動に起因するシスマ2018が遠因で、コンスタンティノープルを支持する聖職者らとの教会内闘争に入りつつあり、教会は王政復古を支持するどころではありません(これは東方正教会全域がそうで、もはやルーマニアやブルガリア、セルビアですら王政復古は不可能です。なにかすると、コンスタンティノープルが介入してきて荒れる可能性があるのでは、王政復古による社会の安定など戯言にしかなりません)。
 ジョージア政府にしても、今までメインで支持してきたムフラニ系のダヴィト殿下がこんなことになってしまった以上、やる意味も見いだせないでしょう。そもそも彼らが本気でダヴィト殿下とヌグザル殿下の関係をマネージしなかったことが一因ではありますが……。

 ダヴィト殿下の一子で、ヌグザル殿下の女系孫にもあたるギオルギ殿下の将来に期待する人々もいますが、統一の王室当主として認められる可能性はあるかもしれませんが、それは確実ではありませんし、まして王政復古はもうないと断言していいでしょう。

 

関連:
 ジョージア王女【グルジア王女】アナ殿下が父でグルジンスキー系当主のヌグザル殿下と共に、元夫で対立するムフラニ系当主のダヴィト殿下を「王室の代表者を勝手に名乗るのをやめよ」と提訴(2019年3月)ダヴィト殿下がエリザベス2世陛下に授与した勲章(鳩山(元)総理も授与されているとの噂あり)が一定金額寄付すれば誰でも入手できる説や、ダヴィト殿下側が弁護士がヌグザル殿下を「ジョージア正教会【グルジア正教会】によるDNA検査の結果バグラチオン王朝の一員でないとわかった」(検査機関は否定)とするなど泥沼総決算の予感
 ジョージア王室【グルジア王室】グルジンスキー系当主ヌグザル殿下をはじめとする人々(ムフラニ系含む)が、対立するムフラニ系当主のダヴィト殿下とその弁護士を非難する公式声明を新聞に掲載した模様(2019年4月)

 

グルジンスキー系ジョージア王室【グルジア王室】当主/ジョージア皇太子ヌグザル殿下が、キリスト教/ジョージア総主教【グルジア総主教】イリア2世聖下を叙勲(2020年8月)

※この記事はキリスト教 高位聖職者のニュースと重複します。

 

 2020年8月2日、グルジンスキー系ジョージア王室【グルジア王室】当主/ジョージア皇太子ヌグザル殿下(His Royal Highness Crown Prince Nugzar of Georgia : ヌグザル・バグラチオン=グルジンスキー公子 : Prince Nugzar Bagration-Gruzinskyヌグザル・バグラチオニ=グルジンスキー公子 : Prince Nugzar Bagrationi-GruzinskiBatonishviliTsarevich)は、キリスト教/東方正教会/ジョージア正教会【グルジア正教会】の首座/全ジョージアのカトリコス=総主教イリア2世聖下(His Holiness Catholicos-Patriarch Ilia II of All Georgia)を、王立エレクレ2世騎士団に叙勲しました。

※この騎士団の詳細がわからないので、騎士に叙任したといっていいのかわかりませんが……。

 

The Royal House of Georgia საქართველოს სამეფო სახლი – ერეკლე მეორის სამეფო ორდენი | Facebook

On August 2nd, in the Cathedral of Sameba in the capital of Georgia, the Head of the Royal House of Georgia, HRH Crown Prince Nugzar Bagrationi-Gruzinski bestowed upon HH the Patriarch of all Georgia Ilia II the Royal Order of King Erekle II.

ジョージア王女【グルジア王女】アナ殿下が父でグルジンスキー系当主のヌグザル殿下と共に、元夫で対立するムフラニ系当主のダヴィト殿下を「王室の代表者を勝手に名乗るのをやめよ」と提訴(2019年3月)ダヴィト殿下がエリザベス2世陛下に授与した勲章(鳩山(元)総理も授与されているとの噂あり)が一定金額寄付すれば誰でも入手できる説や、ダヴィト殿下側が弁護士がヌグザル殿下を「ジョージア正教会【グルジア正教会】によるDNA検査の結果バグラチオン王朝の一員でないとわかった」(検査機関は否定)とするなど泥沼総決算の予感

 ジョージア王室【グルジア王室】グルジンスキー系統のジョージア王女アナ殿下(Her Royal Highness Princes Anna of Georgia : アナ・バグラチオニ=グルジンスキー公女 : Princess Anna Bagrationi-Gruzinsky)と父で王室当主のジョージア皇太子ヌグザル殿下(His Royal Highness Crown Prince Nugzar of Georgia : ヌグザル・バグラチオン=グルジンスキー公子 : Prince Nugzar Bagration-Gruzinskyヌグザル・バグラチオニ=グルジンスキー公子 : Prince Nugzar Bagrationi-GruzinskiBatonishviliTsarevich)は、アナ殿下の元夫で、対立しているムフラニ系ジョージア王室当主/ジョージア皇太子ダヴィト殿下(ムフラニ公 : His Royal Highness The Crown Prince Davit of Georgia, Royal Prince of Kartli (Batonishvili), Prince of Mukhrani and Mukhran Batoni : ダヴィト・バグラチオニ=ムフラネリ公子 : Prince Davit Bagrationi-Mukhraneliダヴィト・バグラチオン=ムフランスキー公子 : Prince Davit Bagration-Moukhransky)を提訴した模様です。

 

 (英語)Georgian ‘royal divorcees’ face-off in court over right to the throne

 

 二人は王朝の統合のために結婚し、一子・ジョージア王子ギオルギ殿下(His Royal Highness Prince Giorgi of Georgia : ギオルギ・バグラチオン・バグラチオニ・ムフラン・バトニシュヴィリ王子 : Prince Giorgi Bagration Bagrationi Mukhran Batonishviliギオルギ・バグラチオニ=ムフラネリ公子 : Prince Giorgi Bagrationi-Mukhraneliギオルギ・バグラチオン=ムフランスキー公子 : Prince Giorgi Bagration-Moukhransky)を儲けていますが、その後離婚しています。

 また、アナ殿下はその前の結婚により二女を儲けているとされます(追記:ヌグザル殿下系のサイトでは二女子とも王女となっています)。
 ヌグザル殿下は現在、当主は後継者を指名できるとしています。ムフラニ側が立場を譲らないならば、アナ殿下の後は、殿下の二人の娘のどちらか(なにせすでに王女にしているので)を後継者と指名するだろうことを示唆しています。

 

 今回の提訴は、長年の対立の末ではありますが、「ヌグザル殿下側の許可なしにダヴィト殿下が王室の代表者であるようなことをいっているのをやめるよう要求する」もののようです。

 

 記事で取り上げられている件のひとつは(前々から話の出ている)、ダヴィト殿下が英国女王エリザベス2世陛下に授与(グロスター公爵リチャード王子殿下夫妻が代理で受け取ったもの)したジョージア鷲騎士団のグランド・カラーが、約3000ポンド(=約44万円)の寄付をすれば誰にでも手に入る疑惑です。

 なお、記事とは関係なく、また日本の鳩山由紀夫(元)総理など政治家が同騎士団の叙任を受けているという話もあります(階級や、買ったのか無料で貰ったのかなどまったくわかりません)。

 

 さらに、ダヴィト殿下側弁護士が、「ジョージア正教会【グルジア正教会】がおこなったDNA検査」によって、ヌグザル殿下らはバグラチオン王朝の一員でない(男系でない)ことが証明されたという主張をしているようですが、これに対し、検査機関がこれを否定(そもそもその検査機関は教会と関係ないとのコメント)。
 DNAによる否定をしてくるというのは、王室関連では一番のタブーですが、提訴直後でこの状況では、どこまで泥沼化するのかわかったものではありません。

 

 はたして、キリスト教/東方正教会/ジョージア正教会【グルジア正教会】の首座/全ジョージアのカトリコス=総主教イリア2世聖下(イリヤ2世 : His Holiness Catholicos-Patriarch Ilia II of All Georgia)が夢見る王政復古はこれで潰えてしまうのか。聖下の健康状態を含めて予断を許さない状況となってきました。

 

追記:
 上記以外にも、ダヴィト殿下によるアナ殿下への暴力疑惑(DV疑惑)など、ダヴィト殿下の個人的な信頼感の失墜は避けられない状況です(追記:ダヴィト殿下はジョージアを出国したようです)。

 ムフラニ系男系男子による王政復古は、不可能となった感があり、ギオルギ殿下の成人を待たずして、もはや大部分の人々の熱は冷めてしまっています。

 しかしグルジンスキー系の主張通りに、いきなりの女子→女系可能(アナ殿下の長女イリナ・バグラチオニ=グルジンスキー嬢)による継承はバグラチオン王朝の復古とも受け止めにくいという前提もあります。

 東方正教会自体が、コンスタンティノープルのいい加減な行動により教会分裂に突入しており、王政復古を支援するどころではなくなっています。ジョージア正教会もイリア2世聖下を最後に王政復古に積極的な首座を迎えることはないでしょう。

 以上のことから、ジョージア王政復古の可能性は潰えたのではないかと判断していいでしょう。

 とはいえ、王政復古がなかろうと、王室は一定の権威を持つものであり、その王室当主としての役割は将来的に誰が担うことになるのか。
 ダヴィト殿下がジョージア国内に戻らないとするならば、グルジンスキー系統が正統な王室とされていくでしょう。ヌグザル殿下、アナ殿下の次は、アナ殿下の一回目の結婚の第一子・長女のイリナ・バグラチオニ=グルジンスキー嬢、第二子・次女のマリアム・バグラチオニ=グルジンスキー嬢、二回目の結婚で長男のギオルギ殿下の誰かということになりますが、イリナ嬢もまだ未成年であり、本人がどの程度興味を持っているかということすらわかりません。