二つの結婚式を前に、ロシア帝室ロマノフ家の争いは終わっていないと思わされる記事(2021年9月)

 ロシア帝室ロマノフ家では、最後の皇帝ニコライ2世の従弟の孫であり現在当主を称しているロシア女大公マリヤ殿下(Head of the Russian Imperial House : Her Imperial Highness The Grand Duchess Maria Wladimirovna of Russia)の唯一の子供であるロシア大公ゲオルギー殿下(His Imperial Highness The Heir, Tsesarevich, and Grand Duke George of Russia : プロイセン王子 : Prince of Prussia)とキリスト教/東方正教会/ロシア正教会に改宗ヴィクトリア・ロマノヴナVictoria Romanovna)の名をえたレベッカ・ベッタリーニ嬢(Rebecca Bettarini)の結婚式が予定されています。
 民事婚は2021年9月24日、宗教婚は2021年10月1日、にそれぞれおこなわれるとの発表。

関連:
 ロシア帝室ロマノフ家継嗣/ロシア大公ゲオルギー殿下とレベッカ・ベッタリーニ嬢の結婚式は2021年10月1日、ロシア・サンクトペテルブルクにておこなわれると発表(2021年3月)
 ロシア帝室ロマノフ家継嗣/ロシア大公ゲオルギー殿下とレベッカ・ベッタリーニ嬢の民事婚は9月24日におこなわれる模様(2021年8月)

 

 一方、ロマノフ家には男系子孫が存在しますが、過去に(ロシア帝国崩壊後に)同等身分ではない者と結婚し、貴賤結婚として帝室の一員からはずされた人たち(の子孫)が存在します。
 これらの人々はロマノフ家協会(Romanov Family Association)という団体を結成し、マリヤ女大公殿下の系統と対立してきました。
 が、高齢の人物たちの薨去などにより、男系男子自体が減少し、動向自体もあまり報じられてこなかったのですが……。
 そのうちの一人、ロスティスラフ・ロスティスラヴォヴィチ・ロマノフ公子殿下(His Highness Prince Rostislav Rostislavovich Romanov【Romanoff】)が2021年9月12日に宗教婚をおこなうとの予定が発表されました。

関連:
 宗教婚予定?(2021年9月12日?):ロスティスラフ・ロマノフ公子殿下夫妻がロシア正教会の宗教婚をパリでおこなう予定との情報

 上記記事にも追記しましたが、殿下自らによるとされるプレスリリースが回付され、その中では自身には(His Imperial Highness)が使用されています。
(このプレスリリースは、どこか信頼できるサイトが掲載したらリンクします)

 また、ロマノフ家協会に属するものでロシア帝位を主張する者はいないとするものの、一方で、最年長系統の男系男子をアンドレイ・アンドレーエヴィチ公子(Prince Andrei Andreevich)、ロマノフ家協会会長をオリガ・アンドレーエヴナ公女(Princess Olga Andreevna)と表記するなど、以前からの主張を掲載しています。
 ただし今回の宗教婚自体にロマノフ家協会や上記のお二人が関わっているかはまだわかりません(参列者がはっきりしないとわかりません)。
※なお、このままの状況ですと。いずれはロスティスラフ公子が最年長系統の男系男子となります。

 前夜におこなわれる夕食会には、フランス駐箚のロシア大使が参列するとのことで、教会はマリヤ女大公殿下を支持し、政府はロマノフ家協会よりの立場を取る(ことがある)という従前からの状況が存続しているのではないかとも思わされます。

 

 上記に関連したことなのか、あるいは別件で出てきたことなのかわかりませんが、マリヤ女大公殿下を支持するサイト「The Russian Legitimist」が、上記の方々をロシア帝室のメンバーではないとする記事を掲載。

 (英語)A New Article on the 1938 Declaration is posted in FAQ section! — The Russian Legitimist

Last week, a social media site described Andrew Romanoff (born in 1923) as Head of the Russian Imperial House and also referred to his half-sister Olga Romanoff (born in 1950) and his cousin Rostislav Romanoff (born in 1985) as members of the Imperial House.

These three individuals do indeed descend in the direct male line from members of the Imperial House, but they are not themselves members of the imperial dynasty.

 記事内容からすると、先週、ソーシャルメディアで、アンドレイ公子をロシア帝室当主、オリガ公女や(今回宗教婚をおこなう)ロスティスラフ公子を帝室のメンバーとする表記があったようです(正直、この書き方だと、誰かその辺りの人が適当に書いたとも取れるので、状況がよくわかりませんが)。

 ともあれ、このような表記に対して、彼らは貴賤結婚の子孫で帝室の子孫ではないとし、1938年の宣言文書を持ち出してきています。
 これははっきりいって苦しい言い訳です。
 というのも、彼ら貴賤結婚の子孫が帝室に含まれないのは、別に1938年の宣言が理由ではなく、ロシア帝室の結婚に関するルールが同等身分間の結婚以外をするものを帝室の一員と認めないものだからです。1938年の宣言はそれを確認した(らしい)というだけで、言ってしまえばたいした意味はありません

 ではなぜ1938年の宣言を持ち出してきたのか?
 それは、彼らの支持するマリヤ女大公殿下の継嗣ゲオルギー大公殿下が、今回同等身分でない人物と結婚するからで、これは(これまでのマリヤ女大公殿下の系統の主張をすべて認めたとしても)ルールからすればアウトです。
 なのでルールを持ち出せないので、根本であるルールではなく、1938年に現状を確認した(らしい)文書を持ち出してきたわけです。

 「そんなルールは時代遅れでは?」という意見ももちろんでしょう。
 しかし、今回、マリヤ女大公殿下は、ルールに対してなんら発表をしていません。これまで傍系の人物らを貴賤結婚として排除してきたルールを変更するともいっておらず、自分の子供だけはルールを無視してもスルー、では、どうも釈然としないものが残ります。
 もちろん傍系の子孫らがもうロマノフに興味を失っているのならば、女系だろうと、同等身分でなかろうと、それでもいいでしょう。ゲオルギー大公殿下もそれなりに年をとってしまっており、この問題のために結婚が遅れているのはあきらかです。そこに同情する人々もいます。
 しかし、排除されてきた貴賤結婚の子孫の人々のうちの一人ロスティスラフ公子殿下が、どうやら納得していないというのもあきらかです。女系ではニコライ2世の妹の子孫であり、支持する人もいますし、排除されてきたことに同情する人々もいます。
 そんなわけでこの問題はまだまだ続きそうです。

 

 そしてロスティスラフ公子夫妻には男子が一人いますが、結婚するよりかなり前に生まれており、伝統的には(どちらにせよ)帝室の一員とみなされません。
 ロスティスラフ公子が自身の子供をどう扱うつもりなのかはわかりませんが(プレスリリースには特に表記無し)、もし自身の子供を帝室の一員として扱うとなると、また異論が発生するかもしれません。

 

 とまあ、これが説明のすべてではありませんが、正直なんでこんなことになってしまったのかと思うところがあります。
 もちろん争いのある(旧)王室は他にもいくらでもありますが……。

ライニンゲン公子カール・エミッヒ殿下を“ロシア皇帝ニコライ3世”として擁立しているロシアの君主政主義者党の立ち上げた王室情報サイト(2019年3月)“ニコライ3世”ではなく「ロシア公子ニコライ・キリロヴィチ殿下」となっています

 アントン・バコフ氏ら君主政主義者党がライニンゲン公子カール・エミッヒ殿下を「ロシア皇帝ニコライ3世」とし、理屈はともかくとして、ちょっとその宣言にはうんざりしながらも注目していた人も多かったのですが、いつの間にか同党関係者が王室情報サイトを立ち上げていました。
 各国の王室情報やロシアの過去の情報に、自分たちの情報を混ぜ込んでしまおうというものかと思われますので、その辺りはご注意を。

 

 さて、そのサイト。
 英語版の「About-his-highness」のところからですが……

 

 About-his-highness

The Heir to the All-Russian Emperorship,
His Highness Prince of the Imperial Blood Nikolay Kirillovich of Russia,
Prince zu Leiningen.

 「ロシア帝位継承者/ロシア公子・ライニンゲン公子ニコライ・キリロヴィチ殿下」、ということでいいでしょう。

 なぜいつのまにかロシア皇帝ニコライ3世を称するのをやめたのかよくわかりませんが、なぜ称したのかもよくわからないので、考えないことにします。

 

 また、同ページですが、殿下に関することと彼らの立場(動機はともかくとして)がまとめて比較的短く説明されており、一読する価値は……興味があればあるのではないでしょうか。

 

 ここで簡単にわかりやすく説明してしまいますと、彼らがロシア皇帝・ロシア帝室当主としているのは、
 ニコライ2世 → (従弟の)キリル大公 → (長男の)ウラジーミル大公
 という順番になるようで(これはある程度知られていると思いますが)、ここまでは現当主のマリヤ女大公殿下と同じです。

 しかしここから先はロマノフ家協会などの理屈、すなわちウラジーミル大公の結婚は同等身分の結婚ではないため、生まれた子供=マリヤ殿下にはロシア帝位継承権はないとするものです。

 一方で、ウラジーミル大公自身が地位を失うわけではないとします。これはオーストリアのハプスブルク家で、フランツ・フェルディナント大公が貴賤結婚をしながらも次期帝位は失わなかったことを考えれば(暗殺されてしまいましたが)ムチャな主張ではありません。

重要なところ書き忘れていたので追記:
 さて、ウラジーミル大公のあとのことですが、男系男子が消滅するため、「再近親の男系女子・またはその男子優先長幼制子孫を考える」というのがセミ・サリカ法の基本の一つです(他の考え方もあります。セミ・サリカ法は極めてよくわからないものであり、最終的には力で決まるシステムと思ったほうが良いかと)。
 これにより、ウラジーミル大公の長姉であるマリヤ大公女(もちろん現当主のマリヤ殿下とは別人)及びその子孫が対象となります。
 1992年のウラジーミル大公薨去時に、マリヤ大公女及び長男のライニンゲン公エミッヒは故人となっていますので、エミッヒの長男ライニンゲン公子カール・エミッヒ殿下が潜在的なロシア帝位継承者となるわけです(潜在的であるのは、東方正教会の信徒でないことと、ロシア帝室法を守ることや当主となることを誓っていないことにあります)。
 カール・エミッヒ殿下は、二回目の結婚が貴賤結婚だったことにより、ライニンゲン公位継承権を失っていますが、上記のウラジーミル大公と同じく、本人のロシア帝位継承権が失われるわけではない、とするのが彼らの立場です。また、ライニンゲンの称号や敬称は失われていないとしていますが、これについては一般的にもそう扱われていることが多いです(他の家にも例はあります)。

 さらに、ウラジーミル大公は長女のマリヤ殿下を“摂政的地位”としたことについては(このあたり詳しくありませんが結局最終的には後継者になっています)、これはロシア帝室法の観点から見て合法ではないものの、当主が存在しない時期には不明確さが残るとします。が、2013年にカール・エミッヒ殿下が東方正教会の信徒となり、ロシア帝室法を守ることを誓い当主となったことにより、なんの意味もないものとなった、という解釈のようです。

 

 それはさておくとして。

 上記ページでは、三回の結婚のうち、

In 1984, Prince Karl Emich zu Leiningen contracted a dynastic marriage with Princess Hohenlohe-Öhringen (1960–1989), in which their daughter, Princess Cecilia zu Leiningen was born in 1988.

in which his second daughter Theresia zu Leiningen was born.

in which their only son Prince Emich zu Leiningen was born in 2010.

 興味深いのは、2010年に生まれた子息エミッヒ公子殿下について、ロシアに関連する称号の表記がないことが挙げられます。未成年であり、両親が望めば東方正教会への改宗も問題ないことを考えると、三回目の結婚が同等身分間でないことから、ロシアの称号を与えるのを躊躇しているのではないかとも思われます(“ニコライ3世”を躊躇してほしかったですが)。

 二回目の結婚で生まれた次女については、 Princess 表記がなく、母親が貴族ですらないということで問題外扱いなのかもしれません。単にタイプ時に抜けただけかもしれませんが……。

 しかし、一回目の結婚については、これはメディアタイズド・ハウス【シュタンデスヘル】同士の結婚であり、ロシア帝室とライニンゲン家の結婚が同等身分なのであれば、こちらもまた同等身分であるといえます。
 つまり、この結婚で生まれた子供は、(潜在的には)ロシア帝室の一員としての権利を持つ子供、ということになるでしょう。
 ライニンゲン公女ツェツィーリエ殿下(Her Serene Highness Princess Cäcilie of Leiningen)は30歳になっており、もしこのロシア話に興味があれば加わるでしょうし、そうであればロシア公女(Princess of Russia)の称号付きで記述されている可能性が高いでしょう。
 ですが、そのような称号は併記されておらず、残念ながら(?)このようなうさんくさい話には興味がないということかと。

 

※「ロシア公子」「ロシア公女」について

 ロシア帝室では、英語で「Prince」「Princess」にあたる称号を持つのは、皇帝から曾孫以降の(遠縁の)成員であり、大公や大公女より明確にランクが低いものです(敬称も「Imperial Highness」を用いず「Highness」「Serene Highness」を用います)。
 よって「皇子」や「皇女」としてしまうと、そのランクの低さが伝わらないため、当サイトでは「公子」「公女」としています。

 

関連:
 ロシア帝室ロマノフ家当主/ロシア女大公マリヤ殿下が、ロシア帝位継承法の変更の承認を、キリスト教/ロシア正教会モスクワ総主教キリル聖下に求めている模様(2019年1月)

 

2017年12月に、ロマノフ家協会の新会長にオルガ公女殿下が選出されていた模様(2018年1月)

 2017年12月3日に、ロマノフ家協会(RFA : The Romanov Family Association)の新会長に、ロシア公女オルガ・アンドレーエヴナ殿下(Her Serene Highness Princess Olga Andreevna of Russia)が選出された模様です(英国人?)。

 ロマノフ家協会は、ロマノフ家傍系で貴賤結婚に分類される可能性が高い男系子孫たちなどが加入しています。
 同協会の会長は、2016年のロシア公子ドミトリー殿下の薨去に伴い、空席となっていました。
 同協会がかつて示していた継承ルールに従うと、現在のロシア帝位継承者およびロマノフ家当主となるのはアンドルー・ロマノフ公子殿下(アメリカ人?)です。
 オルガ殿下はその年齢の離れた異母妹のようです。

 現在のこの協会の目的は、よくわからないものになっているように感じますが……。

 

 (英語)Romanovs elect new chairman to spearhead dynasty – Russia Beyond

 

訃報(2007年3月13日):ロシア公女エカテリーナ・イヴァノヴナ殿下、薨去(1915~2007)

 2007年3月13日、ロシア公女エカテリーナ・イヴァノヴナ殿下(Her Highness Princess Catherine Ivanovna of Russia)が、ウルグアイ東方共和国の首都モンテビデオで薨去された模様です。
 1915年6月25日(12日)生まれの91歳。

 ロシア帝国滅亡前に最後に生まれたロシア帝室の一員。